ミオの備忘録

猫と音楽とミステリー、映画が好きです☆

朱色の研究

有栖川有栖先生の名探偵 臨床犯罪学者・火村英生が活躍するシリーズ長編作。

『朱色の研究』角川文庫 2002年 (1997年 角川書店より刊行された単行本の文庫化)

前から好きだった作品。読んでから、ずいぶん時間がたっているので、再読しました。実写ドラマ6話・7話の原作です。 

例によって、謎解き部分には極力ふれない方向で感想を書き起こしてみます。(このところ、相手に伝わるように表現することって大事だなと。おなじ母語でも、驚くほどに意志疎通できないことってありますよね。政治家さんの伝わらなさは、ある意味お家芸というか、戦略的な面もあるのかもしれませんが……)

アリスさんのミステリー小説観(名探偵が謎を解いて、殺人事件の犯人を暴く小説について)とか、火村先生の隠されたこころ(悪夢の片鱗)とか、そういったキャラクター個々のエピソードも見処です。読み進めながら、頭のなかで火村先生とアリスだけじゃなくて、朱美ちゃんもドラマの俳優さんで再現されて楽しかったです。他のひとが考えられないくらい朱美ちゃんだったんだな……と。あと、原作の最後のエピソード。すっかり忘れていたのですが、なんか良いなって思いました。全編を通して色のイメージがたゆたっていて、そのなかでも印象がひときわ鮮やかです。

犯罪者を狩る火村先生の立ち位置が垣間見えるのが、事件関係者との次の会話。部分的に抜粋しました。先の2つが関係者で、あとの2つが火村先生です。宗教観にブレがありすぎる私は、この関係者のひとつめの台詞が懐かしく、あたたかいものに感じられました。幼稚園に通っていたので、最初に触れた宗教的なものが仏教だったのです。不勉強のため、感覚でしかとらえていないのですが……。そして、それに対する火村先生の答え。私は、先生にずいぶん感化されてしまっているかもしれません。

「私たちは皆、死んだら無明の闇に儚く消え去るのではなくて、同じところへ向かう。その先は見知らぬ場所ではなく、私たちが元いた場所、生を授かる前にいた懐かしい場所だと考えることは安らぎになるし、この世で生き抜く力を与えてくれるでしょう」

「死後の世界があり、かつ極楽行き地獄行きという選別があると仮定して--人殺しは地獄に行く、と決まったわけじゃないでしょう。みんなでお手々つないで懐かしい場所に帰るのなら、殺人者も一緒でいいんじゃありませんか?」

「違います」「私は、地獄も極楽もこれっぽっちも信じていないだけです。そんなものは、現世の不合理不条理から目を背けるための方便として仮構されたフィクションにすぎない。極楽も地獄もない。(中略) もしも、死後に神の裁きが待っているのなら、人間が人間を裁くことは僭越であるばかりか、犯罪的に傲慢です。この世には人間しかおらず、あの世は存在しないから、犯罪者は人間の手で裁かれるべきなんです」

 

菩提樹荘の殺人

有栖川有栖先生の名探偵 臨床犯罪学者・火村英生が活躍するシリーズ。4編が収録されています。

1月~3月に「臨床犯罪学者 火村英生の推理」として実写ドラマ化されましたが、わたしは原作・ドラマどちらも大好きです。(DVD/BD BOXが発売されましたので、興味のあるかたは是非♪) ひとが演じる説得力なのか、観ていて、そっか実際にいたらアリスや火村はこういうキャラクターなんだなって。ドラマを観てからは、作品を読みながらアリスと火村が俳優さんで脳内再生されるのが楽しいです。

菩提樹荘の殺人』単行本 文藝春秋 2013年〈アポロンのナイフ/雛人形を笑え/探偵、青の時代/菩提樹荘の殺人〉

例によって、ネタバレや謎解き部分に触れるのは避けつつ、感想を書いてみます。

ドラマ化していない「雛人形を笑え」火村とアリスのかけあい漫才が楽しかったです。つきあいの長さと、気が合ってる感じが伝わる。こういうのをドラマでも観たいなって思うけど、活字ではおもしろくても、こう「狙わずに笑わせる」っていうのは映像的にはむずかしいのかな。

アポロンのナイフ」は、ドラマ8話の原作。でも、アポロンの影はドラマの最初の方から見え隠れします。原作では、最後までアリスはアポロンの顔を知らないことになってます。

「探偵、青の時代」は、another story 第1話。原作では学生時代の知人が語る火村のエピソードが、ドラマではアリス自身の体験談として時絵さんに語られます。原作のほうが登場人物が多いなど多少の違いはあれど、どちらもアリスの火村をわかってる感がいいなぁって思いました。とくに、猫のところとか。ドラマでは、「猫と雨と助教授と」(『ペルシャ猫の謎』収録)のエピソードもちらりと入ってます。「菩提樹荘の殺人」で描かれるアリスと火村の出会いの場面もこちらに……。

菩提樹荘の殺人」は、事件そのものはドラマ化していないけれど、アリスが火村に語った小説を書くきっかけとなったほろ苦いエピソードはドラマ第4話に出てきます。

あとがきに「火村・アリスのコンビはある時点から齢をとらなくなり、いつも三十四歳で登場する。いわゆるサザエさん方式で、」とあって、謎の一端が解けた思いがしました。そう、それだ!みたいな。

 

乱鴉の島

有栖川有栖先生の名探偵 臨床犯罪学者・火村英生が活躍するシリーズの長編作品。「初の孤島もの」とのこと。

『乱鴉の島』講談社ノベルス 2008年 (2006年6月に新潮社から出版された単行本をノベルス化)

時絵さんのはからいもあり、休暇を三重県の離れ小島でのんびり過ごそうとした火村先生とアリス。ところが、思いがけない手違いから目的地とは違う場所にたどり着いてしまい……

 ゴッホの「カラスのいる麦畑」が情景描写にあったので、思わず検索してしまいました。全編にわたって、大鴉が羽ばたいているかのようなイメージ。映像が先行しそうな作品でした。謎解きも、とてもフェアです。

エドガー・アラン・ポー氏の作品を読んでみたくなりました。『大鴉』や『構成の原理』を。それから、W.W.ジェイコブス氏の『猿の手』も読みたいです。事件に直接的な関わりがあるわけではないけれど、各章に引用されていたり、話題に出たり、知っていたらより楽しめそうです。

ドラマのDVD/BD BOXが発売されて、動いている火村先生とアリスを観たばかりだったので、脳内再生がはかどりました。ドラマの2期とかスペシャルドラマとか、あるといいのに……(ΦωΦ)

ペルシャ猫の謎

有栖川有栖先生の名探偵 臨床犯罪学者・火村英生が活躍するミステリー。タイトルに国の名前を冠した「国名シリーズ」5冊目の短編集です。

ペルシャ猫の謎』文庫版 (株)講談社 2002年 〔収録作品「切り裂きジャックを待ちながら」「わらう月」「暗号を撒く男」「赤い帽子」「悲劇的」「ペルシャ猫の謎」「猫と雨と助教授と」1999年5月 講談社ノベルスとして刊行されました〕

タイトルに猫とついているだけで、なぜか思い入れのある作品。再々々読くらいです。表題作でもある「ペルシャ猫の謎」は、最初に読んだときの感想は「はい?」で、次の感想は「お!」で、今回は「あぁ!」って感じでした。おなじような感想をもたれた方は、わたしとハイタッチです。

謎解きやミステリーからは少し離れるけれど、火村先生のキャラクターが出ていて好きな作品が「悲劇的」と「猫と雨と助教授と」。あとがきで、「この題名は谷崎潤一郎の『猫と庄造と二人のおんな』をもじった。」とあるのを見て、そちらの作品も購入してしまったほどです。結局、読めずに積んでしまった気が……。

切り裂きジャックを待ちながら」は、斎藤工さんが火村英生を演じたドラマ「臨床犯罪学者 火村英生の推理」hulu限定配信の"another story"第2・3話の原作……なのかな。ドラマでは、謎解きの骨格的なものは変わらないものの、人物造形などは大幅に変更されていて、より映像向けの描かれ方になっているような気がします。もとは、1994年12月24日深夜に放映された〈ミッドナイト・ドリーム・スペシャル 真冬の夜のミステリー〉という番組内で、関西の新本格作家三名による推理ドラマの三本立てが放映され、そのなかで有栖川先生が提出した原案からできたドラマが『切り裂きジャックを待ちながら』。それをノベライズしたものが、本作品とのこと。この時のテレビドラマには火村もアリスも登場していないそうですが、見比べたら楽しいだろうな。そんな経緯を経ているからなのか、毛色の変わった作品のように感じました。途中から終盤にかけて劇的というか、劇場的というか。ー閉幕ーで締められているところも、そんな印象を抱かせる要素かもしれません。

「暗号を撒く男」は、ドラマ第3話にチラッと影が……。実は、わたしもマネしてみたことがあります。しっかり覚えるとまではいきませんでしたが……。(ΦωΦ)

白い兎が逃げる

有栖川有栖先生の名探偵 臨床犯罪学者・火村英生助教授が活躍するミステリー。

『白い兎が逃げる』(株)光文社 2003年〔収録作品「不在の証明」「地下室の処刑」「比類のない神々しいような瞬間」「白い兎が逃げる」〕

この作品では、火村先生は助教授。発行年と役職に注目するようになって、ようやく分かってきました。もしかしたら、サザエさん方式が採用されているのかもしれない。されていないかもしれない。発行順に読むってことをしていないので、そのあたりがあやふやですが……。アリスと兎というイメージの相性の良さもあって、好きな作品です。再々読くらい。でも、細かい部分を忘れていたりするので、今回も楽しめました🎶

「地下室の処刑」は、ドラマ第9話の原作にあたります。ドラマ全体の流れとして、当事者が代わってコンパクトにまとまっているような。なんか背の高いイケメンを想像していたキャラクターが、ドラマではそんなでもなかったなって印象です。ネタバレは避けますね。

「比類のない神々しいような瞬間」あとがきで有栖川先生が「賞味期限のあるアイディアなので、なるべく早めにお召し上がりください。」と書いてみえますが、今現在でもおいしくいただけました。自分の記憶力が弱いのも、こういうときはプラスに感じられます。

表紙も素敵です。各話の標題も。先日、読んだばかりの『長い廊下がある家』も表紙が素敵でした。奥付とあわせて凝ってるなって。 

長い廊下がある家

有栖川有栖先生の名探偵 臨床犯罪学者・火村英生准教授が活躍するミステリー。

『長い廊下がある家』(株)光文社 2010年〔収録作品「長い廊下がある家」「雪と金婚式」「天空の眼」「ロジカル・デスゲーム」〕

このなかの「ロジカル・デスゲーム」は、ドラマ第10話の原作です。確率の話はどこかで読んだことがあったかと思っていたけど、初見でした。原作もドラマもどちらも良いなぁと思いました。原作の有栖川先生に弱っているところを見せない火村先生は、流れは異なるけれどドラマの火村先生にも通じるものがあるのかな。

「雪と金婚式」は、謎解きがフェアで、あたたかい夫婦愛が描かれていて、素敵でした。

「天空の眼」は、有栖川先生が活躍する話。隣人の真野早織さんも出てきます。ドラマの映像でも観てみたいな、と思いました。言わば、アリス回です。です。

そんなこんなで、ドラマのBOXがそろそろ発売されるのでそわそわしています。ドラマ自体は動画配信サービスで観ていましたが、特典映像が気になります!(ΦДΦ)

「秘密」

映画を観て、なんだか語り尽くされていない部分がある。わたしがキャッチしきれなかったものがあるのかなって思いました。それを知りたい。ということで、原作を読んでみました。映画の内容に触れつつ、感想をなげてみますね♪

「秘密【新装版】」清水玲子 1巻(case.1 大統領ジョン・B・リード暗殺事件 case.2 28人連続殺人事件・貝沼清孝) 2巻(case.3 新人・天地奈々子の脳 case.4 露口絹子)

いつもの本屋さんへ行ったら、1巻に薪さんの帯、2巻に青木さん帯がかかっていました。表紙と同じ絵の栞がついていて、少しお得感。うっかり最終巻まで買ってしまいました。

すごく良いかたちで映画化されたんじゃないかなって思います。原作とまるっと同じではないけれど、原作の良さを分かりやすく抽出して並べかえた感じ。映画は、この作品だけで完結しているけれど、原作のストックがあるし、回収してほしい伏線もあるし、続編を観たいです。出来れば、おなじキャスト・スタッフ・監督さんで!

映画の青木さんの設定とか、部屋の感じとか、家族構成とか、過去とか、なんか素敵でした。家……良いなぁ。青木さんが明らかにしたいと思っている過去の事件……って?(やはり次作で明らかにされる?)

貝沼と薪室長の出会いの場面とか、短い時間で説得力のある動機づけにしたってことなのかな。映画では、教会という場所で、罪の境界にいた人間として貝沼が描かれていて、原作では微罪ではあるけれど有罪確定でした。キーワードとして、秘密を隠しておくのは「鍵」だったり。原作では「栓」だったり。

絹子のキャラクターが、やむにやまれぬ事情があった(原作)→もとからサイコパスの要素があった(映画)となっているのは、良かったなって。そちらのほうが、ざわざわしない。

奈々子さんが健在。そのまま元気でいてね。

そのせいで、ひとが最期にみる映像のエピソードが鈴木さんやZIP(←可愛いコ)のになってました。そして、ZIPの記憶も色はそんなに少なくなかったような気が……機械の調整でなんとでもなる説を採用します。

こんなところでしょうか。途中から覚え書き程度のメモになってしまいましたが、これならそんなにネタバレになってないかな。どうかな。

ここのところ、漫画作品の実写化が多いけれど、なんだかんだで楽しみです。ただ漫画では自然な流れだけれど、そのまま現実世界に落としこむのは難しい流れとか……そのあたりの折り合いをつけるために変更するってありだと思います。それで、自然に話にひきこまれるなら、「原作を寸分たがわず再現する」ことにこだわらなくても良いんじゃないかなって。一般論として、ですが。(ΦωΦ)